水道水が危ない~除草剤ラウンドアップの怖さ~

 今回は、農業用だけでなく、市街地や家庭用でも使われている写真にある除草剤「ラウンドアップ」の問題を考えます。どこでも大量に売られているので、ご覧になったことがあるかと思います。使っている方もおられると思います。

主成分は危険なグリホサート

 「ラウンドアップ」の主成分は、グリホサートです。WHOの専門機関の一つで、発がんのメカニズムや予防などを研究している「国際がん研究機関(IARC)」は2015年3月、グリホサートについて「ヒトに対しておそらく発がん性がある」グループに分類しました。発がん性リスクを、5段階のうち2番目に高い危険度で示したのです。ワシントン大学の研究チームは「グリホサートにさらされると、がんリスク(非ホジキンリンパ腫)などが41%増大する」と学術誌に発表しました。
 アメリカでは、がんを発症した多くの人が発売元のモンサント社(現バイエル)に対して裁判を起こしました。モンサント裁判は今も続いていますが、20年6月、親会社のバイエルは裁判中の3件を除く原告の大半と、109億ドル(約1兆1600億円)で和解しました。しかし、訴訟で問題にされたラウンドアップの発がん性については責任を負わず、今後も販売を継続すると言います。

水道水に流入している

 ラウンドアップは、ネオニコと同じで、雨が降ると河川に流れ、やがて水道水に流入します。ところが、日本では水道水に残留するグリホサートの基準値がなく、目標値だけなのです。しかもその数値も2ppm(mg/L)と、他の農薬に比べてダントツに高いのです。例えば、よく使われるパラコートという農薬がありますが、これは0.005ppmですからグリホサートは400倍もゆるいのです。
 グリホサートの基準値はEUでは0.0001ppmだから、日本の水道水は、ラウンドアップの成分がEUの2万倍溶けていても飲めることになります。比較的ゆるいアメリカでも0.7ppmです。米国環境保護庁は、これを超えると「腎臓障害・生殖困難」を引き起こすと警告しています。
 グリホサートの熱分解温度は200度近いので、煮沸しても消えません。これまで日本の水道水は「安全でおいしい」と言われてきましたが、実際は農薬に汚染された水を飲んでいることになります。

日本は基準を緩和

 ラウンドアップの危険性が広く認知されていくに従い、EUや北欧、ロシア、スリランカ、タイ等々、グリホサートを輸入禁止にしたり、あるいは使用規制を強めたりする国が相次いでいますが、なぜか日本は大幅に緩和しています。
 例えば、2017年のクリスマスの日、農産物のグリホサート残留基準値を、ひそかに大幅に引き上げました。特に目立ったのが、パンやパスタに使われる小麦(改正前の6倍)やトウモロコシ(5倍)、そしてソバ(150倍)です。詳しくは、下の表(緩和された70種類のうち10種の抜粋)をご覧ください。
食品名 改正前   改正後 緩和倍率
小麦 5 30 6倍
大麦 20 30 1.5倍
ライ麦 0.2 30 150倍
トウモロコシ 1 5 5倍
ソバ 0.2 30 150倍
ひまわりの種子 0.1 40 400倍
ベニバナの種子 0.1 40 400倍
その他オイルシード 0.1 40 400倍
牛の食用部分 2 5 2.5倍
牛の肝臓 2 5 2.5倍

 厚労省の担当者は、後日内輪の席で「クリスマスプレゼントでした」と言ったそうです。なお、これらの数字は、それまで日本よりも高かったアメリカの残留基準値に右へ倣えしただけなのだそうです。
アメリカからの要求のまま

 世界の流れに反して、なぜ残留基準値を上げるのでしょうか。東京大学大学院(農学生命科学研究科)の鈴木宣弘教授は「日本はアメリカの要求を全て受け入れることになっている」からだと言います。
 「残留基準値が、突然6倍とか150倍になるはずがなく、食品安全委員会が審査しているとは思えません。これは初めから結論ありきでアメリカからの要請に応えているんですね。アメリカから農薬や添加物に関する要求はいっぱいあります。その要求のうち、今年はどれを差し出すか、その順番を決めるのが日本の外交戦略なのです。モンサントはアメリカの政権に強い影響力があります。世界中がラウンドアップを制限する中で、儲けるには残留基準値を上げるしかなく、それに応えているのが日本だけなのです。国民の命を差し出してまで、なぜそこまでやるのかと思いますね。」

 

2021年05月01日