市立病院の独立行政法人化は何をもたらすのか

 4月17日(土)、UMECOで「小田原市立病院の独立行政法人化は何をもたらすのか」という内容で、神奈川県立病院労働組合執行委員長の鮫島彰さん(右写真)からお話を伺いました(日本共産党小田原市委員会・小田原市議会共催)。
「一部適用」「全部適用」って?

 市立病院は4月から「全部適用」に移行し、病院長だった川口竹男さんが、事業管理者になりました。「地方公営企業法」という法律があります。地方自治体は、水道、交通、病院などの市民からお金をもらう事業も行っています。この法律は、その公営企業の組織・財務・従事する職員の身分などについて定めたものです。今までは市立病院はその法律の財務会計に関する規定のみを適用(一部適用)していましたが、今年から全部適用することになりました。そうなると、今まで市長にあった組織や人事などの権限が事業管理者に移行することで、公営企業としての独立性が強化されるということになります。

4年連続黒字だったのになぜ?

 小田原市立病院は、2016年度から4年連続黒字でした。それなのになぜ、変えなければならないのでしょうか。それは国からのガイドラインの押し付けがあるからです。神奈川選出の議員、菅さん(現総理)が総務大臣の時に作ったもので、「病床使用率が7割未満なら病床数を減らせ」「3年以内に経営効率案を作れ」「近隣病院との機能重複を避けろ」(足柄上病院との連携がこれによるもので、上病院で産科業務を廃止することに)「民間移譲を検討して5年以内に実施しろ」というような内容が盛り込まれています。その後、より一層の統廃合や民営化を押し付けようとしているのです。
独法化=「自分たちの病院」でなくなること
「全部適用」になったものの、職員の身分は公務員のままですし、制度上独自の給与設定が可能になるとはいえ、市長部局や水道等他の全部適用事業との均衡を考慮し、それらの給与制度に準じる運用例が多く、さほど大きな変化はないと思われます(ただし、医療政策と病院経営の分離が生まれ、政策の一体性が確保できなくなる危険性もあるので、注視していかなければなりませんが)。しかし、「独法化」となると大違いです。
利用者負担増と医療の後退に
 「独法化」とは、市が別の法人格を持つ団体を設置し、法人理事長が病院運営の権限を持つことを意味します。組織、人事(任免)、予算等の権限は理事長が持ち、職員の身分は公務員ではなくなります(神奈川県立の5病院はすでに独法化されていますが、組合があるため、しっかり団体交渉して給与レベルも下げていないそうですが、小田原市の職員の場合、組合がないので、心配だと鮫島さん)。 すでに独法化した病院では、利用者の負担増と医療の後退が起こっています。収益を上げるため、保険給付されない患者の自己負担額が増えていきます。06年に独法化された大阪府立病院では、セカンドオピニオン料が、7,000円から21,000円に値上げされ、分娩料金が93,000円から180,000円に値上げされました。このほかにも1日に何万円もの高額な差額ベッド代(1~4人部屋に入ると全額自己負担の室料がとられるのをいう)を取っている病院もあります。人件費を削減するため、看護師等の給料を削減した病院もあります。このため、この病院では多くのベテラン職員が辞めていき、新規採用の職員が多くなりました。さらに、新規募集をしても人が集まらず、人員が不足して、過密・長時間労働が強いられるようになりました。こうして医療が後退していくことになるのです。
自治体病院は「自分たちの病院」

 自治体病院が他の医療機関と異なるのは、地方自治体が設置する行政機関であり、選挙でえらばれる首長、地方議会、そして最終的には選挙権を持つ住民が設置や運営の在り方に関与できることです。「自分たちの病院」であるのが、自治体病院です。
独法化されると、独立採算と経営効率化を求められ、料金(健康保険制度外)の変更なども議会の審議なしに行われます。赤字が蓄積すると民間への売却や事業の廃止の可能性もあります。地方独立行政法人は自治体病院の経営形態としてふさわしくありません。

独法化反対の闘いを!
 独法化は、新病院が出来上がった後に狙われるのではないかと考えます。まだ時間はあります。「一部適用→全部適用→独法化」は当局の思いでしょうが、レールではありません。「先行の独法化の実態を訴える」「『地域医療を守る会』を作り署名を集める」など皆さんの知恵を集めて住民に知らせ、反対世論を大きく広げる闘いをしていくことが必要です。

2021年04月17日